樹生かなめのヒモ
遊びに出て行って、やっと帰ってきたと思ったら、ケガをしています。
無理やりちゅうをしたら噛まれます。
「マンションに住んでいた人が置いていった猫」という噂の野良猫ざました。その噂だけ、野良猫の名前もわかりません。
猫好きの隣の奥様は「おじさん」と呼んでいました。おじさんだから「おじさん」だそうざます。おじさん、おじさん……おやじ猫なんざすまか。
おまけにといいますのか、マンションに住んでいる方が餌をあげているからか、野良猫のくせに「すごいでぶ」だとか。
というわけで、
樹生かなめ、でぶおやじと同棲中ざます。
某編集部の某担当様にでぶおやじ猫のことをお話したら「まさか、猫に『でぶ』なんて名前つけていないでしょうね」と言われてしまいました。
「でぶ」という名前はつけていませんが、たまに「ぶー」と呼んでいます。だって、重いんだもん(涙)。６㎏あるんだもん。
名前は「太郎」ざます。
「どうしてそんな名前をつけたんですか？」とよく聞かれます。
それは…その……あんまり可愛らしい名前が似合う猫ではないからです。
アタクシが触りたい時に触ると太郎は怒ります。ええ、アタクシは噛まれます。
「誰が養ってると思とるんや、少しくらい触らせてくれてもええやんかっ」と、樹生かなめはオヤジと化してしまいます。
太郎は自分が甘えたい時だけ、アタクシのところにやってきます。ここぞとばかりに、触ると怒ります。だっこしてもいやがります。
太郎は自分が甘えたい夜はアタクシのベッドに入ってきますが、ベッドのど真ん中に寝ます。アタクシの寝る場所がございません。
一日に何度も何度も外に出たがります。外で会ったら、太郎は一目散でアタクシから逃げます。
太郎、アタクシに懐いているのか、懐いていないのか、よくわかりません。
でも、何度遊びに行っても必ず帰ってきます。
整体の帰り、おかずは鮭と漬物というシンプルな鮭弁当を夕食用に買って帰りました。
鮭弁当の鮭、太郎に食べられてしまいました。
太郎の食事はちゃんといつもの場所に置いてありました。アタクシの夕食はその鮭弁当しかありませんでした。
太郎、いくらアタクシでもキャットフードを夕食代わりにはできないわよぅ。
鮭弁当は注意ざます。
猫ってこんなかっこでおねんねするの？ おまけに、それは綿よ。
というわけで、睡眠中の太郎ざます。
いい加減、部屋を片付けないと……と、思い立ったんですけどね。
いつの間にか、太郎が段ボールの中に……
太郎、その段ボール、捨てたいんやけど……
太郎のベッドはちゃんとほかにあるやん……
太郎お気に入りの段ボール、捨てるに捨てられません。
捨てるに捨てられない太郎お気に入りの段ボールにて太郎はおねんね中。
あの、あのね、太郎、落ちるよ。
抱き上げて、太郎のベッドに連れて行きたいんざますが、できませぬ。
おねんね中といえども、太郎は取り扱い注意ざます。ええ、おねんね中でも、触ると噛むんざます(涙)。
太郎、落ちる時はクッションの上に落ちてね。
太郎、その段ボールを捨てたいの。ほかにも、太郎の段ボールがあるからいいやん。
資源ごみのタイムリミットまで、一時間あるか、ないかな？
太郎、お願い、段ボールの中から出て。
いい加減、部屋の掃除をしないとあかんのよ。
樹生かなめの母が人生にくたびれ果てている娘を案じて上京してくるのよぅ(涙)。
いくらアタクシの母でもこの部屋を見たら、あまりの汚さに卒倒すると思うのよぅ。
お願い、太郎、その段ボールとさよならして。
獣医さんから「外に出すな」と言われました。
太郎は外に出るとケガをしてくるので、アタクシだって外に出したくありません。でも、外に出さないと、太郎はアタクシの手を思いきり噛みます。ええ、アクタシの手には太郎の噛んだ跡がくっきり……。アタクシは太郎と凄絶な戦いを繰り広げました。血みどろざます。
勝者はちょっとした隙を狙った太郎ざました。
やはり、おやじに躾は無理ざます。外を知っている猫を家の中だけで飼うのは無理、と猫好きの奥様に諦めるように諭されました。
太郎、お願いだから、元気で長生きしてよ。
うちの不良息子、ええ、太郎が帰ってきました。
やっと帰ってきたと思ったら、新しいケガざます。太郎の鼻を見てくださいませ。鼻から血がたらたらと溢れておりました。
樹生かなめ・母「かなめ、太郎の鼻を見て」
樹生かなめ「うわっ……」
鼻の上の負傷に参ったのか、太郎はアタクシの母に甘えました。ええ、飼い主であるアタクシのもとに来ないで、母のもとへ一目散なんざます。
太郎はマザコンざました(誰が養ってると思ってるのよっ)。
というわけで、真正面から「ハイ、チーズ」ざます。
鼻の上のケガの次は耳のケガざました。おまけに、身体にはハゲができています。
母の観察より、太郎はどこぞのメス猫を追いかけている模様。
メス猫を追いかけてケガ？ それでも怯まずにまたメス猫にあたっくもーしょん？
それでこそ、男だーっ、
それでこそ、男の真髄ーっ、
なんて、アタクシは申しません。
太郎、そんな凶暴な女はやめろーっっっっっっっっっっっっっ。